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じゅんし
殉死
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1943(昭和18)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,737 字 · 21 页
こうして二月となり三月となった。三次盆地をとりかこんでいる山々の嶺の雪もいつか消え去り、朝夕の霞が濃くなるにしたがって、野づらの下草は萠えはじめ日だまりのあたりには桃と桜が咲きだした。そしてその春とともに江戸から新しい主君が国入りをした。因幡守長治のあとを継いだ式部少輔長吉は、実は浅野の宗家である安芸守光晟の三男である。はじめその兄の長尚が養嗣子となったのだけれど、病歿したためさらにそのあとへはいったのであった。はじめての国入りなので五六日は政務をみるために費した。それから建立の成った故因幡守の墓所へ参詣の礼がおこなわれ、つづいて家臣たちの引見の式があった。その式のあと、老臣たちに御酒くだされの宴がひらかれたとき、長吉は墓畔に侍していたのは何者であるかとたずねた。老職のひとりが仔細を言上した、式部少輔はあきらかに感動したようすだったがそのときはなにも云わず、さりげなくはなしをそらしてしまった。しかしそれから数日して作事奉行が呼ばれ、――御墓所の内に小屋をつくってやれ、庄兵衛一代を限ってかれに与える。そういう申付けがさがった。小屋を作っても墓から離れていては入るまい、そう察したうえの思切った恩典である、異例ではあったが反対する者はなかった。