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さつじんのはて

殺人の涯

海野 十三

「読書趣味」1933(昭和8)年10月創刊号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,631 字 · 6 页

青空文庫

そして人もあろうに、女房の奴にすっかり聴かれてしまった。

「まあ、よかった」と私は恥も外聞も忘れて女房に話しかけた。「私は、お前を殺したとばかり思っていたよ。お前は生きていて呉れて、こんなに嬉しいことは無い」

「何を云ってんのよオ」と女房はニヤリと笑った。「あんたはあたしを殺したに違いないわ」

「威しっこなしサ。現在お前は私の傍にこうやって肩を並べて歩いているじゃないか」

そうは云ったものの、あの深か情の女房が又しても傍にへばりついているのかと思うと、私は五体の力が一時に抜けてしまうように感じたのだった。

「あんたは随分お莫迦さんネ」女房はおかしそうに笑った。

「何故さ」私はムッとした。

「そうよ、お莫迦さんに違いないわ。一体あんたは何故あたしの傍に居るんだかよく考えて御覧なさい。あたしはあんたに殺されてしまったのよ。死んだ人間なのよ。その死んだ人間とあんたは肩を並べて歩いているんじゃないの。どうして死んだ人間と並んで歩いて行けると思って? そんなことが出来る場合は、たった一つだけよ。それはネ、あんたも死んでしまった場合なんだわ。つまりあんたは生きていると思っているらしいけれど、本当は夙くの昔死んでしまっているのよ。