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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
「ほんとう。母が始めから子供の理論を理解して共鳴したりしない処がむしろ可愛ゆいわね。子供に神様を取り上げられて悄気ながらも、子供の愛と同時にあの思想に引き入れられちまったのね」
「それはそうと、あなたはむす子さんのいいつけ通りの着物の色や柄を買って着ると仰有ったね。その襟の赤と黒の色の取り合せも?」
「ええ」
「ふーむ、ユニークな母子叙情の表現法だなあ」
かの女は、枕元のスタンドの灯を消し、自分の頬に並べて枕の上に置いてあった規矩男の手紙を更に夜闇のなかに投げ出した。規矩男の手紙を読み終えてから今までじっと悲しく見つめ考えていたスタンドの灯影の一条が、闇のなかで閉じたかの女の眼の底に畳まり込み、それが規矩男の手紙の字画の線の印象と同じ眼底で交り合い、なかなか眠りに入れそうもない。
規矩男の手紙には、かの女と逢わなくなったこの短時日の間に経た苦難の後の気持から出た響きがあった。
……(前略)あなたが、あなたの母子情を仲介にして若い男に近づいていることが無意識にもせよ、あなたの母子情を利用しているようで堪えられないと仰有れば、僕とても、僕に潜在していた不満な恋愛感を、あなたに接触することで満足させようとしたと云われても――否むしろ僕自身そう僕を観察さえするようになりました。