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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
かの女は一人ぽつんとして中央の椅子に小さく蹲まった。
見物群の肩と肩との間から、K・S氏の作品がちらちら覗ける。メカニズムのような規則的に表現された物象を押し上げるように、ロマンチックな強烈な陰影が、一種ねばねばする人間性を発散している彼の作品は、何となく新中世紀趣味と云ったような感じをかの女に与えて、先程説明を聴いた所謂ネオ・コンクレチスムの理論とは、また別なものを感じられる芸術家の芸術家的矛盾にかの女は興味を覚えながら、この部屋に入って来た時から、ちらちら偸視して胸を躍らしている壁の一場面の前の人の動きにも決して注意を怠らなかった。
そこにはたった一枚、K・S氏が携えて来たかの女のむす子のデッサンの小品が並べられてあるのだ。
かの女を不安にしたのは、いつもその前に人だかりがして群衆の囁きの瘤を作っているに引きかえ、今日はさっさと人の列は越して行くのだ。かの女は洪水が橋台を押し流してしまったあとの、滑らかな流れを見るような極度の不気味さを、人の列に感じて来た。どうしたことだろう。むす子の絵はもう飽きられたのか。人々に対して魅力を失ったのであろうか。