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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
しかし規矩男。規矩男。訣れても忘れている規矩男ではなかった。厳格清澄なかの女の母性の中核の外囲に、匂うように、滲むように、傷むように、規矩男の俤はかの女の裡に居た。
今改めてかの女はかの女の中核へ規矩男の俤を連れ出してみようか――今やかの女のむす子を十分な成育へ送り届け、苦労も諸別もしつくしたかの女の母性は、むしろ和やかに手を差し延べてそれを迎え、かの女の夫の逸作の如く、
「君も若いうちに苦労したのだ。見遺した夢の名残りを逐うのもよかろう」
斯うもかの女にもの分りよく云うであろうか。
君が行手に雲かかるあらばその雲に
雪積まば雪に問へかしわれを。
君行きて心も冥く白妙に
降るてふ夜の雪黝み見ゆ。