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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

自分達は、もっと世間に対して積極的な平気にならなければならない。

「また癖が」、むす子はかの女の自分に感心するいつもの眼色を不快そうに外ずして向うをむきながら、かの女の手をぐっと握り取った。

「怯えなくとも好い……何でもないです。誰でも同じ人間です」

「すると、あの中の女たちは、やっぱり遊び女」

「遊び女もいますし、芸術家もいます。中には、ひどい悪党もいます」

むす子は母親の眼の前に現実を突きつけるように意地悪く云い放ちながら、握った手では母親の怯えの脉をみていた。かの女には独りで異国に残るむす子の悲壮な覚悟が伝わって来て身慄いが出た。かの女は自分に勇気をつけるように、進んでむす子の腕を組みかけながらいった。

「ほんとに誰でも同じ人間ね。さあみんなと遊ぼう」

この夜は謝肉祭の前夜なので、一層込んでいた。人々に見られながらテーブルの間の通路を、母子は部屋中歩き廻った。

通り過ぎる左右の靠れ壁から、むす子に目礼するものや、声をかけるものがかなりあった。美髯を貯え、ネクタイピンを閃かした老年の紳士が立ち上って来て礼儀正しく、むす子に低声で何か真面目な打合せをすると、むす子は一ぱしの分別盛りの男のように、熟考して簡潔に返事を与えた。