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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
かの女の眼が引返してむす子に戻り、今更しみじみ不思議な世界でわが子と会った気持になっていると、かの女はむす子の育った大人らしさを急に掻き乱し度くなる衝動に駆られた。
「よして頂戴よ、大人になってさ。お願いだから、もとの子供になりなさいよ」
かの女は胸でこう云って無精にむす子に手をかけ度い気持を堪えていると、一種の甘い寂しい憎しみが起る。むす子の上ポケットの鳶色のハンケチにかの女の眼が注がれる。「まあ、なんというお巧者な子だろう。憎らしい。忘れないでハンケチなど詰めて」ふと気がつくと、むす子もいつか絵を見ていた眼を空虚にして、心で何か噛み躙っているらしい。
かの女の眼とむす子の眼とが、瞠合った。二人は悲しもうか笑おうかの境まで眼を瞠合ったまま感情に引きずられて行ったが、つい笑って仕舞った。二人は激しく笑った。
「どうして笑うのよ」
「おかあさん、どうして笑うんです」
「あんたがいつか言ったこと想い出したからよ」
「どんなことです」
「あんた、いつか、こういったわね。僕、おかあさんにそっくりな小さい妹を一人得られたら、ぐいぐい引張り廻して僕の思う通りにリードしてやるって、あれをよ」