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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
「サヴォン・カディウム! サヴォン・カディウム!」ロザリも、おとなしいジュジュまでが立ちかかって手を出した。
むす子は可笑しさを前歯でぐっと噛んで、女たちの小さい反抗を小気味よく馬耳東風に聞き流すふりをしている。
「何ですの。サヴォン・カディウムって」とかの女はちょっと気にかかって左隣の芸術写真師に訊いた。
「ママンにサヴォン・カディウムを訊かれちゃった」明朗な写真師の青年は、手柄顔に一同に披露した。
女たちは、タイラントに対する唯一の苛めどころが見付かったというように、
「さあ、ママンに話そうかな、話すまいかな」と焦らしにかかった。
「ひょっとしてそれがむす子の情事に関する隠語ではあるまいか」こういう考えがちらりと頭に閃くと、かの女は少し赫くなった。
「訊かない方がよかった」「しかし訊き度い」
「何でもないじゃないか」とむす子はフランス語で女たちを窘めて置いて、今度はかの女に日本語でいった。
「カディウム・サヴォンというシャボンの広告が町の方々に貼ってあるでしょう。あれについてる子供の顔が僕に似てるというんです。随分僕を子供っぽく見てるんですね」
それから、むす子は女たちの方を向いて同じ意味の事をフランス語でいって、付け足した。