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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
エレンのポーチとか、ロザリのアーチとか。そして、その完成祝いには恋人の女神を連れて来て初入店の式をさせるのです。その希臘神話風の服装で」
「女は、殊に西洋人の女は、決してそういう扱いを嫌いなわけではありません。大好きです。それで、暫時は有頂天になっていますが、結局は空虚の感じに堪えられなくなるというんです。なぜでしょう」
「それは総てを与えても、結局は男が女に与うべきものを与えないからでしょう」かの女は即座に答えた。エゴイズムの男。そして自分でもそのエゴイズムに気がつかない男。かの女の結婚生活の前半の嘆き苦しみの原因もまた、そこに在ったのではなかったか……。
「そうでしょうか、そうかも知れませんね」
「パパとアルトゥールとまるっきり違うけど……私思い出したわ。ほらあんた子供のとき、パパと新しく出来た船のお客に二人だけで呼ばれてって、二三日ママと訣れてたことがあったでしょう。帰って来て、矢庭にママにぶら下がって泣き出したね。何故だか人中でパパと暮すと、とても寂しくてやり切れないって……」
むす子は遠い過去の実感に突き当って顔が少し赫くなったのを、ビールを口へ持って行って和めた。