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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

歩き方が乱調子になって来た青年の姿を見失うまいとして、かの女は嫌でも青年に近く随いて歩かねばならなかった。そして人だかりのしている夜店は意地になっても見落すまいとして、行き過ぎたのを小戻りさえする青年の近くにうろうろする洋装で童顔のかの女が、青年にだんだん意識されて来た。青年は行人を顧みるような素振りを装いながら、かの女の人柄や風態を見計うことを度々繰り返すようになった。

離れて彼女を援護して行く逸作の方が、先に青年の企みある行動を気取って、おかしいなと思った。しかし、かの女はすっかり青年の擬装の態度に欺かれて、人事のようにすましてただ立ち止っていた。たまたま閃きかける青年の眼差しに自分の眼がぶつかると、見つけられてはならないと、あわてて後方へ歩き返した。

青年のまともの顔が見られる度に、かの女は一剥ぎずつ夢を剥がれて行った。それはむす子とは全然面影の型の違った美青年だった。蒸気の陽気に暑がって阿弥陀冠りに抜き上げた帽子の高庇の下から、青年の丸い広い額が現われ出すと、むす子に似た高い顎骨も、やや削げた頬肉も、つんもりした細く丸い顎も、忽ち額の下へかっちり纏ってしまって、セントヘレナのナポレオンを蕾にしたような駿敏な顔になった。