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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

かの女はそういう規矩男が、自分の愛する夫や子供をまるでその心身の組織に入れているようで、規矩男に対して急に不思議な愛感に襲われた。そして次に、ふっとむす子を思い出し、一瞬ひらめくような自分達の母子情の本質に就いて考えて見た。「私の原始的な親子本能以上に、私のむす子に対する愛情が、私の詩人的ロマン性の舞台にまで登場し、私の理論性の範囲にまで組織され込んでいる。ぜいたくな母子情だ。この私の母子情が、果して好いものか悪いものか……だが、すべて本質というものは本質そのもので好いのだ。他と違っているからと云って好いも悪いもありはしない」こう考えながらかの女は何故か眼に薄い涙を泛べていた。規矩男は見てとって、

「僕あんまり云い過ぎました?」

「ううん、云い過ぎたから好かったの、あははははは」

規矩男も「あはははははあ」と笑っちまうと、あとは二人とも案外けろりとして、さっさと歩き出した。非常に脱し易そうでそれを支えるバランスを二人は共通に持ち合っているとかの女には思えた。その自覚が非常にかの女を愉快にし、爽かにした。かの女は甘く咽喉にからまる下声で、低くうたを唄いながら歩いた。