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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

規矩男は艶々した頬を掌で撫でて、「僕はあなたのむす子さんとは違った母に育てられたんですから」

「と云うと?」

「僕の積極性は、母の育て方で三分の一はマイナスにされてますから」

かの女はこの青年のこれだけ整った肉体の生理上にも、何か偏ったものがあるのではないかと考えてみた。これだけつき合った間に気がついただけでも、飯の菜、菓子の好みにも種類があった。酸味のある果物は喘ぐように貪り喰った。道端に実っている青梅は、妊婦のように見逃さずいで噛んだ。

「喰ものでも変っているのね、あなたは」

「酸っぱいものだけが、僕のマイナスの部分を刺戟するロマンチックな味です」

規矩男には散歩の場所にもかたよった好みがあった。

規矩男は母の命令で食料品の買付けに、一週一度銀座へ出る以外には、余所へ行かないといっているとおり、東京の何処のこともあまり知らない様子。武蔵野のことは委しかったが、それにも限度があった。彼の家のある下馬沢を中心に、半径二三里ほど多少歪みのある円に描いた範囲内の郊外だけだった。武蔵野といってもごく狭い部分だった。それから先へ踏み出すときは、

「僕には親しみが持てない土地です。