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ははおや

母親

豊島 与志雄

「読売評論」1951(昭和26)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,057 字 · 11 页

青空文庫

娘の方も、母の手に心から縋っている。買物袋の中には、鶏肉が百匁、竹の皮と新聞紙と二重に包んで、ぽっちりとはいっている。

一方はまだ戦災の焼跡のままになってる四辻まで来ると、信子は娘をかえり見る。

「ちょっと、お詣りして来ましょうね。」

「どこ?」

「今日ね、七・五・三のお祝いの日ですよ。あなたも七つだから、氏神さまに、お詣りしましょう。」

「ああ、七・五・三て、聞いたわ。きれいな着物をきて、神さまに、お詣りするんでしょう。」

「そうよ。でも、買物の帰りですから、この儘でいいのよ。」

二人は神社の方へ曲って行く。

――吉岡はかじっていたスルメを捨てて、酒をぐいぐい飲んだ……。信子よ、幼い者に向って、なぜ嘘をつくのか。七・五・三の晴着がなければ、ないでいいじゃないか。ないのをむしろ誇りとしたらどうか。初めからお詣りをするつもりでいたくせに、わざわざ買物袋などをさげ、買物の帰りだからふだん着のままでよいなどと、なぜごまかすのか。幼い者にはありの儘を言って聞かせなさい。そうだ、あの衣裳屋の店先に立っていたことも、すっかり言って聞かせなさい。

信子は店先に暫く佇んで、それから中へはいって行く。