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ひとうとうこうき

比島投降記

石川 欣一

ある新聞記者の見た敗戦

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,333 字 · 134 页

青空文庫

「日本の兵隊は悪いがEさんはいい人だ」というようなことを、この少年は一生懸命に喋舌っていた。ノートや鉛筆ばかりではあるまいと思って、その後E君に聞いて見たが「何、大したことはありません」というだけで、何も話してくれなかったが、日本の兵隊だからとて百人が百人、悪いことばかりした訳ではないのだ。

この日以来、僕はG中尉の通訳となり、一ヶ月余というものは、毎日何等かの交渉を持った。その結果、G中尉は僕にとって、忘れることの出来ぬ人になった。もちろん国は違い、境遇も違い(平時でも違うが、現在ではこちらは敗北した国の投降者である!)、年齢はこっちが五十で、向うはその半分である。捕虜の分際として「友情」などと、おこがましい言葉を使うことは避けるが、単に向うは向う、こっちはこっちで、それぞれ忠実に仕事をしたということ以外に、何かしら友情に近い感を、すくなくとも僕は抱くようになり、いまだにそれを抱いている。

ここでハッキリ申しておきたいのは、密林の中やなんかで、さんざん苦労したあげく、国は破れて捕虜になり、あちらこちらで虐待されて、心身ともにヘトヘトになっていた時G中尉が現れ、親切にしてくれたので、その恩を感じたというような、センティメンタリズムに立脚して、僕が、こんな風な感情を抱いたのではないということである。