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みずのおんな

水の女

折口 信夫

「民族 第二巻第六号」1927(昭和2年)年9月、「民族 第三巻第二号」1928(昭和3年)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,525 字 · 38 页

青空文庫

神のおとずれを待っている。これが物見やぐら造りのをさずき(また、さじき)、懸崖造りなのをたなと言うたらしい。こうした処女の生活は、後世には伝説化して、水神の生け贄といった型に入る。来るべき神のために機を構えて、布を織っていた。神御服はすなわち、神の身とも考えられていたからだ。この悠遠な古代の印象が、今に残った。崖の下の海の深淵や、大河・谿谷の澱のあたり、また多くは滝壺の辺などに、筬の音が聞える。水の底に機を織っている女がいる。若い女とも言うし、処によっては婆さんだとも言う。何しろ、村から隔離せられて、年久しくいて、姥となってしもうたのもあり、若いあわれな姿を、村人の目に印したままゆかはだなに送られて行ったりしたのだから、年ぱいはいろいろに考えられてきたのである。村人の近よらぬ畏しい処だから、遠くから機の音を聞いてばかりいたものであろう。おぼろげな記憶ばかり残って、事実は夢のように消えた後では、深淵の中の機織る女になってしまう。

七夕の乞巧奠は漢土の伝承をまる写しにしたように思うている人が多い。ところが存外、今なお古代の姿で残っている地方地方が多い。