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みずがめ

水甕

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,082 字 · 26 页

青空文庫

こんどのは、ちょっとこじんまりした待合で、中はへんに静かでした。ところで、そこには既に中本が来ていて、二人がはいってゆくと、間もなく芸者たちも立ち現われ、酒がはじまりました。仁木は会社で中本を何度か見かけたことがあり、中本の方でも仁木を知ってる筈でした。それにも拘らず、中本は仁木を鄭重に扱って、改めて名刺まで差出しました。名前の肩に、金谷組総長とあるところからみると、相当な顔役らしく思えました。応対万事、折目折目は礼儀正しく、あとはぞんざいに流して、目玉をぎょろりとさしてるところなど、それと頷かれました。五十年配で、洋服の膝を折っているのが窮屈そうでした。

その中本が、既にそこに待ち受けていたということによって、江川の相談なるものも、もう相談などを通りこしているのだと、仁木は悟りました。

事柄は甚だ簡単なものでした。――会社の工場で、製品の一つとして電熱器を試作していました。当時新たに世に出てる電熱器は、ニクロム線が露出していて切れ易く、而も熱量の調節の出来ないものばかりでした。それを少しく改良して、二つの線に切り変えて二様の熱量に調節出来るようにし、取り外しの出来る薄い鋼板を上に被せてみたのです。