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みずごもり
水籠
伊藤 左千夫
「ホトヽギス 第十一卷第二號」1907(明治40)年11月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,600 字 · 10 页
水はどろりとして薄黒く、浮き苔のヤリが流れる方向もなく点々と青みが散らばってちょうどたまり水のような濁り水の上を、元気なくゆらりゆらりと漕いでゆくのである。
いやに熱苦しい、南風がなお天候の不穏を示し、生赤い夕焼け雲の色もなんとなく物すごい。予は多くの郵便物を手にしながらしばらくこの気味わるい景色に心を奪われた。
高架鉄道の堤とそちこちの人家ばかりとが水の中に取り残され、そのすき間というすき間には蟻の穴ほどな余地もなくどっしりと濁り水が押し詰まっている。道路とはいえ心当てにそう思うばかり、立てば臍を没する水の深さに、日も暮れかかっては、人の子一人通るものもない。活動ののろい郵便小舟がなおゆらゆら漕ぎつつ突き当たりのところを右へまがった。薄黒い雲にささえられて光に力のない太陽が、この水につかって動きのとれない一群の人家をむなしく遠目にみておられる。一切の草木は病みしおれて衰滅の色を包まずいたずらに太陽を仰いでいても、今は太陽の光もこれを救うの力がない。予は身にしみて寂しみを感じた。
静かというは活動力の休息である。静かな景色には動くものがなくても感じはいきいきとしている。