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みずとりてい

水鳥亭

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页

青空文庫

二人は亮作に荷物の疎開をすすめなかった。彼女らの生活が不自由になるせいもあったが、亮作の品物などは一切煙と化したところで惜しくはなかったからである。

二人の荷物が発送されると、空間のひろがりが目立った。それが目にしみると、亮作も疎開ということを考えた。せめて本だけは、と考える。それだけが彼の足跡だった。本が焼かれることを思うと、自分が焼かれるような苦痛を覚える。

わずかな月給から買いだめた蔵書が二十何年のうちに二千冊余になっていた。

「なア、信子や。この本だけでも大伯母さんに預ってもらえないかな」

信子はあきれて、溜息をつくのであった。

「なにを言うんでしょうね。あなたは。よくも、まア、羞しげもなく、そんなことを。私はB29に依頼して、この本だけは焼き払ってもらいたいと思っていますよ。考えてもごらんなさいよ。この本のおかげで、私は一生を棒にふったようなものよ。どんなに泣かされたか知れません。あなたは、よくも、まア、ガラクタ本を焼き払う気にならないものですね。人を散々泣かせて、三文の得にもならないどころか、笑いものになったばかしじゃありませんか。この本の一冊ごとに、あなたが低脳だという刻印が捺してあるのですよ。