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みずとりてい
水鳥亭
「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页
それほど学術的価値のあるものでしたら、文部省とか、大学などに保管を托されることですな。そんな物騒な高級品は、私のような凡人の気楽な家庭へ、とても同居を許されません。意地が悪いようですが、堅くおことわり致しますよ」
亮作は無言であった。その悄然たる有様に野口は慈愛の眼差しをそそいだ。
「ねえ、梅村さん。あなたは間違ってやしませんか。命あってのモノダネですよ。あなたがどんな貴重な図書をお持ちか知れませんが、失礼ですが、小学教員のあなたが、――いや、悪くとらないで下さいよ。大学教授でも、専門学者でもないあなたが集めた程度の書籍は、ちょッとした学者の本箱にはザラにあるにきまってますよ。強がりを仰有っては、いけませんね。それは、あなたの一生の愛着が本にこもっていることは分りますがね。しかし、戦争ですよ。命あってのモノダネですよ。足手まといの本なんか、売っちゃいなさい。そのお金で、片田舎の百姓家でも買って疎開先を用意するのが利巧ですよ。意地悪いようですが、本の疎開でしたら、あの鶏小屋は絶対にお貸し致しません。しかし、まさかの用意に、鍋釜、フトンでも分散しといて、イザというとき、逃げこもうという算段でしたら、あの鶏小屋をあなたに開け渡してあげます」