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みずとりてい

水鳥亭

坂口 安吾

「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页

青空文庫

野口の自宅も工場も焼けていた。焼跡へ行ってみると、野口夫妻と子供たちが、墓の中から出て来たように、顔も手足も泥まみれに、かたまっていた。

みんなおし黙ってニコリともせず彼をむかえた。

「みんな焼けましたよ」

野口はつぶやいた。何も言いたくない、というような、不キゲンな声だった。

「私もみんな焼きました。残ったのは、私の着ているものだけです」

「命が助かっただけ、しあわせです。しッかりしなさい」

険悪な顔、噛みつく声であったが、亮作には、人間味がこもって、きこえた。

すがりつきたい思いであったが、野口の手を握るだけで精一ぱいであった。なつかしさに、胸がはりさけるようだ。彼は嗚咽して、数分は言葉もなかった。

「しッかりしなさい」

野口はやさしく彼の肩に手をかけた。

「私はバカでした」

亮作は、しゃくりあげた。

「そんなことを言っても、どうにもなりゃしませんよ。夥しい屍体を見たでしょう。利巧な人も、たぶん死んでることでしょうよ」

野口は相変らず不キゲンだった。彼は死と闘ったのだ。助かるための努力だけが、怖しい一夜の全部であった。

亮作も死に追いつめられた一夜の恐怖は忘れることができない。