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ひょうが
氷河
黒島 伝治
1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,824 字 · 42 页
凍った空気を呼吸するたびに、鼻に疼痛を感じながら栗本は、三和土にきしる病室の扉の前にきた。
扉を押すと、不意に、温かい空気にもつれあって、クレゾールや、膿や、便器の臭いが、まだ痛みの去らない鼻に襲いかゝった。
踵を失った大西は、丸くなるほど繃帯を巻きつけた足を腰掛けに投げ出して、二重硝子の窓から丘を下って行くアメリカ兵を見ていた。負傷者らしい疲れと、不潔さがその顔にあった。
「ヘッ、まるでもぐらが頸を動かしたくても動かせねえというような恰好をせやがって!」
「何だ、君はこっちから見ているんか。」
「メリケンの野郎がやって来たら窓から離れないんだよ。」
大西と並んでいる、色の白い看護卒が栗本を振りかえった。
「癪に障るからなあ、――一寸ましな娘はみんなモグラの奴が引っかけて行っちまいやがるんだ。」大西は窓から眼をはなさなかった。
「あいつらが偽札を掴ましてるんが、露助に分らんのかな。」
「俺等にゃ、その掴ます偽札も有りゃしないや。」
「偽札なんど有ったって、俺等は使わんさ。」
彼等と、アメリカ兵との間には、ロシアの娘に対する魅力の上で、かく段の差があった。彼等は、誰も彼れも、枯枝のように無骨で、話しかけられと、耳の根まで紅くした。