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ひょうが

氷河

黒島 伝治

1928(昭和3)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,824 字 · 42 页

青空文庫

と云うような眼をした。

「この眼に負けちゃいかん!」軍医は自分を鞭打った。

耳朶のちぎれかけた男も、踵をそがれた男も、腰に弾丸のはまった男も、上膊骨を折った男も、それ/″\、憐れみと、懇願の混合した眼ざしを持って弱々しげに這入ったきた。内地へ帰りたい慾求は誰れにも強かった。

「どいつも、こいつも、病気を誇張してやがるぞ!」軍医は考えた。

栗本も同様に、憐れみを乞い求める眼と、弱々しげな恰好をして、軍医の前へやって行った。彼は、シベリアに残されるのだったら軍医の前にへたばろうと考えた位いだ。

「どうだな?」

「傷の下になんかこりのようなものが出来とるんですが。」

「手を伸ばせるかい?」

「いゝえ、まだ伸びません。」

「これを握ってごらん。」

軍医の態度には、どっか柔かい、温かげなものがあった。栗本は、出された甲のすべっこい、小さい手を最大限度に力を入れて握ったと見せるために、息の根を止め、大便が出る位いきばった。その実、出来るだけ力を入れんようにして。

「傷はまだ痛いか。」

「はい。」

「よしッ!」

軍医は出て行くように手を動かした。と温かげなものが、急に、頑固な冷たいものに変った。