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ひょうが
氷河
黒島 伝治
1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,824 字 · 42 页
そのために病院の設備はよくしなければならない! 恐らくこれからさき、ます/\よくされるだろう。しかし、それは吾々には何にもなりはしない。
栗本は、ドキリとした瞬間から、急激に体内の細胞が変化しだしたような気がした。彼はもう失うべき何物もなかった。恐るべき何者もなかった。どうせ死へ追いやられるばかりだ。
彼等は丘を下って行った。胸には強暴な思想と感情がいっぱいになっていた。足を引きずっているものがある。ひょっく/\跛を引いている者がある。防寒帽の下から白い繃帯がはみ出している者がある。彼等は、銃をかつぎ、弾薬盒と剣を腰にまとっていた。どの顔からも、まだ、患者らしい疲労がとれていなかった。
すが/\しい朝だ。バイカル湖の方から来る風に、雪を含んだ雲が吹き払われて、太陽が遠い空に素裸体になっていた。彼等は、今、気がねをすべき何者もなかった。何者にもとらわれることはいらなかった。鬱憤とした思想と感情は、それを慰める手段を取るのが自分達に当然だと考えていた。
新しい雪は、彼等の靴の重みにボコ/\落ちこんだ。彼等は、それを蹴って歩いて行った。……
(一九二八年十一月)