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こおりぐらのにかい

氷蔵の二階

宮本 百合子

「女性」1926(大正15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,201 字 · 37 页

青空文庫

「こないだのビスケット美味かったな、もうあれない?」

と、請求した。

「いやな人! ばれちゃったじゃないの、はっはっはっ」

志野は奇妙な徳をもって生れついているものと見えた。彼女が可愛い喉を仰向け、実にからりとした声ではっはっはっと笑うと、房はどうしても腹立ちを持ちつづけていられなくなった。腹の空いた二匹の仲よい鼠でも見つけたようにふと気がほぐれ、

「いじきたな! あなた達に会っちゃ破産しちまう」

と、笑って損をさせられてしまうのであった。

明日休みという日、志野は朝から出かけた。十一時廻って、階子口から、

「ああ、ああ、私全くへたばったわ」

という声がした。房は、待ちかねて出て見た。後から誰かがついて来た。

「一人じゃないの」

「――僕」

大垣であった。志野は、

「さ」

と大垣を先に室に入れ、畳の上に坐ると、直ぐ脚を揉み始めた。

「――家なんてないもんね、いざ探すとなると。小さくていい家なんてとても在るもんじゃあないわ」

「どの辺歩いたのよ、一体」

「本郷と神田――お友達で日暮里の方に住んでる人があるって、行って見たけど、駄目よ、やっぱり」

「――郊外へ行けばいいんだろうけどね」