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こおりぐらのにかい

氷蔵の二階

宮本 百合子

「女性」1926(大正15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,201 字 · 37 页

青空文庫

「まあ! ステイキ?」

志野は、房のすることを、少しびっくりしたように眺めていたが、美味そうに粉をふいた馬鈴薯まで添えてあるビーフステイクを見ると、始めて本気な興味を示して感歎した。

「あなたったら――とてもハイカラになっちゃったのね。須田さんて、そんなハイカラな家だったの?」

「そんなことないけど……」

房は、働いたのと、友達を望み通り楽しく不意打に成功した満足とで、元気よく挙動した。

「さあ、たべない?」

志野は、清汁の味を賞め、肉の焙(や)き方が上手だと云って、亢奮し、食べ始めたが、半膳も進まないうち、どうしたのか不意に箸を置いてしまった。房は、愕(おどろ)いて自分もやめた。

「どうして――何かあった?」

見ると、志野はまるで上気(のぼ)せ、今にも泣き出しそうになって自分を見つめている。房は、あわてて傍にすり寄った。

「どうしたのよ! 本当に」

「何でもないの、――何だか私――」

無理に笑おうと努め、やっと早口に、

「変に悲しくなっちゃった!」

と云うや否や、志野はいきなり両方の眼からポロポロ涙をこぼした。涙をこぼしながら、彼女は片端からそれを拭き、極り悪そうに微笑んだ。