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えがわらんこ
江川蘭子
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1930(昭和5)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,151 字 · 23 页
「サア、ラン子、一踊り」
老人は青年の肩を抱いたまま、ソファに凭れ込んで、ラン子の例の踊りを所望した。
「エエ踊るわ」
彼女は無邪気に立って行って、蓄音器をかけ、大胆に着物をかなぐり捨てて、黒ん坊音楽につれて、狂暴な舞踏を踊り始めた。
老人はドラ声で訳の分らぬ歌を唄い出した。ラン子の身体は、野獣の様に猥褻に、軽業の様に軽快に、グルグルと廻転した。
若きアダムスは、前の快楽と、隣の恐怖とにはさまれて、名状し難い苦悶を味った。その上、脂肪の塊が段々強く彼を抱きしめる異様な触覚にも悩まされなければならなかった。
彼はその手を払いのけようともせず、わめく老人の横顔を、絶え間なく、ジロジロと、息づまる思いで眺めていた。
ラン子の舞踏が物狂わしくなりまさるにつれて、だが、老人の声は力を失い、青年の肩の腕が、だらしなく解けて行った。
四郎は飛出した両眼で、老人を凝視しながら、「お爺さん、お爺さん」と、そのブクブクふくれた太鼓腹を突いて見た。
老人は、鼾と厚い唇を伝う涎でそれに答えた。大きな丸々した顔が、青ざめて、朝のガラス窓の様に、汗の玉でビッショリだった。
青年はラン子の気違い踊りに飛びついて行って、それを止めた。