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えどのかじゅつ

江戸の火術

野村 胡堂

在线阅读野村 胡堂《江戸の火術(えどのかじゅつ)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,929 字 · 36 页

青空文庫

命より大事と言うと、番頭は金を盗られたに決めて居る様子です。

「いや、そんなものではない、大事な書き物だ、巻物になった伝書だよ」

「それはお気の毒様でございます」

そう言い乍らも番頭は、金で無くてよかった――と言った安堵の色になります。

「伴れは何うした、――隣の部屋に休んだお静殿は?」

此の騒にも顔を出さぬ、お静のことをフト思い浮べたのでしょう。

「あの方なら――ツイ今しがたお発ちになりました」

「えッ」

「旦那様に宜しく申上げてくれ、先を急ぐから、――と仰しゃって、尤も、御旅籠賃はお二人分余分に頂戴いたしました、ヘエ、どうも有難う存じます」

「――――」

井上半十郎の胸の中には、恐ろしい疑がムラムラと湧き起ります。

「それから、旦那様に――江戸へいらっしゃるのを断念して、江州へお帰り遊ばすよう――とも仰しゃいました」

「あの女だッ」

そう迄念入に言う以上は、井上流砲術秘巻を盗んだのは、あの女――お静に紛れもありません。

「あの方が何うかなさいましたか」

「あの女が巻物を盗んで行ったに相違ない、さては――矢張り?」

お静とは仮の名、真は稲富喜三郎の妹、曾ては自分の許婚であった、繁代の世を忍ぶ姿であったでしょう。