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けっとうじょう
決闘場
岡本 かの子
「ペン」1936(昭和11)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,298 字 · 23 页
独りのアイリスは急に大人になったように見えた。奇妙に見えた。そのままにさせて置けない気がした。どうにかしてやらなければどんなになるか解らないように危なげに見えた。ワルトンにはアイリスの近頃の生活が急に淋しそうに見えて可憐らしかった。彼の父の家である雑貨店の店先きで彼女によく逢った。銀行の会計事務を済ますと几帳面に真直ぐに帰宅する彼女をワルトンは大抵午後四時半に待って居た。アイリスの眼差しの中に、彼は質間と哀願と慈愛を見るようになった。二人は挨拶を交わした。一寸した立話をした。それはジョーンが引越して暫くしてからの事であった。それから二人は時々ジョーンの事を話したり訊いたりして其処等辺を散歩した。近所の町を散歩した。ずっと遠くまで歩き廻った。いくら遠くまで散歩しても二人の話はお終いにならなかった。ジョーンの事を話題にするのは今では全く面白くなかった。もう話題にのぼらなかった。アイリスを喜ばせ笑わせ、生き生きと輝かせて、その生の燃焼の中にワルトンは自分自身を飛び廻らせたかった。自分自身を一緒にくっつけてしまいたかった。此頃からジョーンはアイリスを訪ねて逢えない日があった。