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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
娘は声を立てて笑った。「そのくらいのことなら、前に随分あたしだって……」
私はこの娘に今まで見落していたものを見出して来たような気がした。芸妓は手持無沙汰になって、
「そうでございますかねえ、じゃ、ま、抓っても見たり……」と冗談にして、自分を救ったが、誰も笑わなかった。
すると若い芸妓の方がまた
「だめ、だめ、そんな普通な手じゃ。あたしいつか、こちらさまの大旦那の還暦のご祝儀がございましたわね。あのお手伝いに伺いましたとき」といって言葉を切り、そしていい継いだ。「酔った振りして、木ノさんの膝に靠れかかってやりました。いろ気は微塵もありません。お嬢さんにゃあ済まないけど、お嬢さんの為めとも思って、お嬢さんほどの女をじらしぬくあの評判の女嫌いの磐石板をどうかして一ぺん試してやりたいと思いましたから。すると、あの磐石板はわたしの手をそっと執ったから、ははあ、この男、女に向けて挨拶ぐらいは心得てると、腹の中で感心してますと、どうでしょう、それはわたしが本当に酔ってるか酔ってないか脉を見たのですわ。それから手首を離して、そこにあった盃を執り上げると、ちょろりとあたしの鼻の先へ雫を一つ垂らして、ここのところのペンキが剥げてら、船渠へ行って塗り直して来いと云うんです。