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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

その船は舷側に菱形の桟を嵌めた船板を使ったので、菱垣船と云った。廻船業は繁昌するので、その廻船によって商いする問屋はだんだん殖え、大阪で二十四組、江戸で十組にもなった。享保時分、酒樽は別に船積みするという理由の下に、新運送業が起った。それに倣って、他の貨物も専門専門に積む組織が起った。すべて樽廻船と云った。樽廻船は船も新型で、運賃も廉くしたので、菱垣船は大打撃を蒙った。話のうちにも老主人は時々神経痛を宥めるらしい妙な臭いの巻煙草を喫った。

「寛永時分からあった菱垣廻船の船問屋で残ったものは、手前ども堺屋と、もう二三軒、郡屋と毛馬屋というのがございましたそうですが……」

しかし、幕末まえ頃まで判っていたその二軒も、何か他の職業と変ったとやらで、堺屋は諸国雑貨販売と為替両替を職としていた。

それから話はずっと飛んで、前の話とはまるで関係がないものを、強いてあるような話ぶりで、老主人は語り継いだ。

「河岸の事務室を開けて、貸室に致しましたのも窮余の策で、実は、この娘に結婚させようという若い店員がございますのですが、どうも、その男の気心がよく見定まりません。