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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

二歳のとき母に死に訣れてから、病身で昔ものの父一人に育てられ、物心ついてからは海にばかりいる若い店員のつきとめられない心を追って暮らす寂しさに堪え兼ねた娘は、ふと淡い恋に誘われた。

相手は学校へ往き来の江戸川べりを調査している土俗地理学者の若い紳士であった。この学者は毎日のように、この沿岸に来て、旧神田川の流域の実地調査をしているのであった。

河の源は大概複雑なものだが、その神田川も多くの諸流を合せていた。まず源は井頭池から出て杉並区を通り、中野区へ入るところで善福寺川を受け容れ、中野区淀橋区に入ると落合町で妙正寺川と合する。それから淀橋区と豊島区と小石川区の堺の隅を掠めて、小石川区牛込区の境線を流れる江戸川となる。飯田橋橋点で外濠と合流して神田川となってから、なお小石川から来る千川を加え、お茶の水の切り割りを通って神田区に入り、両国橋の北詰で隅田川に注ぐまで、幾多の下町の堀川とも提携する。

東京の西北方から勢を起しながら、山の手の高台に阻まれ、北上し東行し、まるで反対の方へ押し遣られるような迂曲の道を辿りながら、しかもその間に頼りない細流を引取り育み、強力な流れはそれを馴致し、より強力で偉大な川には潔く没我合鞣して、南の海に入る初志を遂げる。