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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

私が手短に娘をここへ連れて来た事情を社長に話す間も、この娘はまるで他にそんな娘でもあるのかと思いでもしてるような面白そうな顔をして聴いている。私は憎みを感ずるくらい、私に任せ切りの娘の態度に呆れながら、始めは娘をこの方と社長に云っていたのを、いつの間にか、この子という言葉に代えて仕舞っていた。

「どうも、近代的の愛というものは複雑ですな。もう、僕等の年代の人間には、はっきりは触れられんが……」

旧詩人の社長は、よく通りかかりの旅客が、寄航したその場だけ、得手勝手なことを頼み、あとはそれなりになってしまう交際に慣れているので、私が娘を連れて、こちらに来た用向きを話し出すと、始めは気のない顔つきをしていたが、だんだん乗り出して来た。

「その男なら時々調査所へ来て、話して行きますよ。淡白で快活な男ですがね」

社長はビールを啜ったり、ハンカチで鼻を擦ったりする動作を忙しくして、やや興奮の色を示し、

「へえ、あの男がこういう美しいお嬢さんとそういうことがあるんですか。それはロマンチックなお話ですね。よろしい、一つお手伝いしましょう」

中老の社長はその男にも好意を持つと同時に、自分も自分の奥に燃え燻ってしまった青春の夢を他人ごとながら、再び繰り返せるように気が弾んで来たらしい。