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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

何ともないような橋なのだが、しきりに私達の心は牽かれる。向う岸の橋詰に榕樹の茂みが青々として、それから白い尖塔が抽んでている背景が、橋を薄肉彫のように浮き出さすためであろうか。私がいつまでも車から降りて眺めていると、娘はそれを察したように、

「東京の吾妻橋とか柳橋とかに似てるからじゃありません?」と云った。

この橋から間もなく、河口の鵜の喉の膨らみのようになっている岸に、三層楼の支那の倉庫店がずらりと並び、河には木履型のジャンクが河身を埋めている。庭の小亭のようなものが、脚を水上にはだけてぬいぬい立っている。

「橋が好きなら、この橋のもう一つ上のさっき渡って来た橋、あれをよく覚えときなさい。あの橋から南と北に大道路が走っていて、何かと基点になっています。もしはぐれて迷子になったら、あの橋詰に立っていなさればよい、迎いに行きますよ」社長はこんな冗談を云った。

官庁街の素気なく白々しい建物の数々。支那街の異臭、雑沓、商業街の殷賑、私たちはそれ等を車の窓から見た。ここまで来る航行の途中で、上海と香港の船繋りの間に、西洋らしい都会の景色も、支那らしい町の様子もすでに見て来た。