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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
それでも堺屋の母はただ僕の母に表向きの難癖をつけたり、失敗を言い募ったりする、まだ単純なものでした」
ところが、木下の生みの母はなかなか手のある女だった。
「一度こういうことがありました。堺屋のおふくろが、僕に掻餅を焼いて呉れていたんです。その側には僕の生みの母親もいました。堺屋のおふくろは、焼いた掻餅を普通に砂糖醤油につけて僕に与えました。すると僕の母はそれを見て、そっとその掻餅を箸で摘み取り、ぬるま湯で洗って、改めて生醤油をつけて、僕に与えました。僕は子供のうちから生醤油をつけた掻餅が好きだったのです」
しかし、いくら子供の好みがそうだからと云って、堺屋のおふくろに面当てがましく、掻餅を目の前で洗い直さないでもよさそうだと木下は思った。その上子供の木下に向って、掻餅を与えながら、一種の手柄顔と、媚びと歓心を求める造り笑いは、木下に嫌厭を催させた。堺屋のおふくろは箸を投げ捨て、怒って立って行った。
「また、こういうことがありました。僕が尋常小学に入った時分でした。その夜は堺屋で恵比須講か何かあって、徹夜の宴会ですから、母親は店へ泊って来る筈です。ところが夜の明け方まえになって、提灯をつけて帰って来ました。