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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
娘は滅多に来ないで、小女のやまというのが私の部屋の用を足した。私はその小女から、帆柱を横たえた和船型の大きな船を五大力ということだの、木履のように膨れて黒いのは達磨ぶねということだの、伝馬船と荷足り船の区別をも教えて貰った。
しかし、そんな智識が私の現在の目的に何の関りがあろう。私が書いている物語の娘に附与したい性格を囁いて呉れそうな一光閃も、一陰翳もこの河面からは射して来ない。却ってだんだん川にも陸の上と同じような事務生活の延長したものが見出されて来る。私がこういう部屋を望んだ動機がそもそも夢だったのだろうか。
すでにこの河面に嫌厭たるものを萌しているその上に、私はとかく後に心を牽れた。何という不思議なこの家の娘であろう。この娘にも一光閃も、一陰翳もない。ただ寂しいと云えばあまりに爛漫として美しく咲き乱れ、そして、ぴしぴし働いている。それがどういう目的のために何の情熱からということもなく快闊そのものが働くことを藉りて、時間と空間を鋏み刻んで行くとしか思えない。内にも外にも虚白なものの感じられるのを、却って同じ女としての私が無関心でいられる筈がなかった。