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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
そうしたあとでは、無垢な、か弱いものを惨忍に踏み躙った悔いが、ひしひしと身を攻めて来て、もしやこのことのために娘の性情が壊れて仕舞ったら、どうしたらいいだろう……」
彼が学問で身を立てるつもりで堺屋の主人に頼んで、段々と上の学校へ上げて貰おうとしたのは、学問の純粋性が彼に沁み込んで、それによって世の中を見るようになれば、女の持つ技巧や歪曲の世界から脱れようかとも思った。ところが、彼が青年になり、青春の血が動くようになるほど、娘のことを考え、この自分の矛盾に襲われ、結局しどろもどろになって、落付いて学問なぞしていられず、娘を愛しながら、娘の傍にはいたたまれなくなって来た。そうかといって、他の女はもっと女臭いものが、より多くあるような気がして女がふつふつ嫌であった。
とうとう彼は二十一の歳に高等学校をやめて、船に乗り込んで仕舞った。
娘は何も知らずに、木下がやさしい性情が好きなのだと思い取っては、そのようになろうと試み、木下がさっぱりした性格を好むと思い取っては、男のようになって働きもした。木下は迷ってすることだが、娘はただ懸命につき従おうと心を砕いた。