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かじか
河鹿
岡本 綺堂
「婦人公論」1921(大正10)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,671 字 · 12 页
そんなむずかしい問題になると僕もいささか返事に困るが、もしその人形が自然に声を出したとすれば、よほど考えなければならないことになる。年の若い女中はひどくおびえているらしいので、僕もなんだか気の毒になって、あるいは奥さんが夜なかに起きて自分で人形をいじったのかも知れないというと、女中は半信半疑らしい顔をしながら、そういえばそうかも知れませんねとうなずいていた。
どちらにしてもこの話はここだけのことにして、奥さんやお嬢さんには何にもいわない方がいいと、僕は女中に注意して別れた。しかし実際僕も一種の不安を抱いているので、その晩もおちおち眠らないで注意していたが、隣り座敷ではなんの声も聞こえなかった。今夜も宵からまた降り出して来て、河鹿の声がしきりに聞こえた。臆病者の僕はゆうべもやっぱり河鹿の声を聞き違えたのか、それとも奥さんが暗闇で人形を泣かせたのか、それとも人形が自然に父母を呼んだのか。それは今に判らない。それから三日ばかりの後に、隣りの一行はここがあんまり寂し過ぎるとかいうので、さらにほかの場所へ引移ってしまったので、その後のことは僕も知らない。しかしその年の秋の末に、なにがし外交官の夫人が病死したという新聞記事を発見したときに、僕は再びぞっとしたよ。