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うたかたのき

泡沫の記

久生 十蘭

(ルウドイヒ二世と人工楽園)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,889 字 · 26 页

青空文庫

万事、都合よく行きそうな気がする」と言っていたが、その散歩は、けっして安心のいくようなものではなく、実のところは、王は自殺する場所を探していたのだということが、今にして思いあたるのである。第一回の散歩のときには、思わしい場所がないので帰ってきた。翌十三日、王は悲劇のあった場所の湖畔の赤塗のベンチに博士と並んで掛け、二十分ほどそこで休憩した。王はその時もうそこを決行の場所にきめていたので、夕方、最後の散歩に出たときには、城からまっすぐにそこまで来て、躊躇なく湖の中へ入ってしまった。

王のほうでは、それほど念入りに計画したことなので、どんなことがあっても声は出さない。ところで、博士のほうはなぜ頑固な沈黙を守りつづけたのだろう。手に余った瞬間もあったはずだから、「誰か来てくれ」とか、「たいへんだ」とか、それくらいのことは叫びだしてもいいところである。これはわれわれがそう思い、また誰しもが疑問に感じる点である」(六月十五日、「ミュンヘン新報」)

その朝、山の城で非公式な告別式があった。喪服を着た湖畔の村民が、黒い長い列になって王の遺骸のそばを通り、順々に脇間の扉から出て行く。