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うたかたのき

泡沫の記

久生 十蘭

(ルウドイヒ二世と人工楽園)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,889 字 · 26 页

青空文庫

とか、「城の塔から飛び降りたい」などと口走るようになった。

その日は夕方から雨が降りだしたが、夜が更けるにつれていよいよ発揚状態になり、午前二時頃、侍従に、「塔の上へ出るから鍵を出せ」と迫った。

そのとき、グッデン博士が附添を連れて参入してくるのが、下の道に見えた。それで、侍従は、王が広間を通って、バルコンの階段へかかる直前に、うまく博士と落合うよう、時間を計って鍵を渡した。

王は広間の中程のところに佇んで、入ってくる博士の一行を不安定な表情で眺めていたが、「ウルムの山の城へ移そうというのだそうだな。おれは気狂いだから、なにをやりだすかわからないぞ。それが承知なら、移ってやる」

と抑えつけたような喉音で、ゆっくりと呟いた。

十二日、早朝、午前四時十五分、王を四輪馬車に乗せ、馭者台と扉の両側に屈強な侍者が附添い、なにか変事があったら、いつでも馬車を停められるように手配して城を出発した。侍医の一行、附添、使丁、憲兵隊長以下は、二台の二輪馬車で後に従った。

午前十時、ゼーハウプトという村で馬を換えた。王は道端に立っている避暑客に愛想よく会釈をし、駅亭の内儀に「水を一杯、くれないか」