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はたのてい

波多野邸

豊島 与志雄

「展望」1946(昭和21)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,194 字 · 45 页

青空文庫

」

そして彼はまた碁盤の方に向いた。

相手の井野老人は高い声で笑った。

「つまらん話だね。だが、そこにはいつでもビールがあるのかね。それなら、僕もこんど案内して貰おう。」

「ええ、いつでも御案内しますよ。」

ところで、実は、そのつまらぬ一件が起った時、私もそこに居合していたのである。――洋介も一緒に、私達は奥の小部屋で焼酎を飲んでいた。そこへ、山口が一人ではいって来て、土間の方の卓につき、ビールを註文した。大田梧郎がビール瓶と小皿物を出した。山口は視線を静かにあちこちへ移して、なにか探索してるようだった。ビールを一本飲んでしまうと、煙草をふかしながら、通りかかった大田に声をかけた。

「おい、ビールをもう一本くれ。」

卓上に帽子を置き、身を反らして、天井に煙草の煙を吐いた。

誂らえの品は手間取った。山口は叫んだ。

「おい、ビールだ。」

その時、洋介が立ち上って土間の方へおりて行った。なにかただならぬ様子なので、私も後に続いた。

洋介は真直に山口の方へ行き、卓上の帽子をぱっと払い落した。山口が先ず帽子を拾って、それを片手につっ立ったのへ、洋介は浴びせた。

「一本でたくさんだ。