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りゅうせんスパイ

流線間諜

海野 十三

「つはもの」1934(昭和9)年~1935(昭和10)年頃

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,982 字 · 70 页

青空文庫

普段心臓が弱かったとかなんとかいう……。要するに、見たところ、何の外傷もないし――」

そのとき鑑識課員が現場撮影をする準備ができたので、課長たちに屍体から離れてくれるように声をかけた。

「大江山さん、これは疑いもなく、他殺ですよ――」

と帆村は飾窓の外へ立ちながら云った。

「他殺? どうして? 解せんね」

「なァに、何でもないことですよ。あの女の靴下に大きな継布の当っているのを見ましたか。もし自殺する気なら、あのモダンさでは靴下ぐらい新しいのを買って履きますよ。なぜならあの女は手提の中に五十何円もお小遣いを持っているのですからネ」

「つまり自殺でないから、他殺だというんだネ。いや、そうはいえない。頓死かも知れない――さっき僕が指摘したように」

「もちろん頓死じゃありませんよ」と帆村は首を振って、「ごらんにならなかったでしょうか、あの婦人の口腔の中の変色した舌や粘膜を。それから変な臭いのすることを。――あれだけのことがあれば、頓死とはいえませんよ」

「それは見ないでもなかったが」と課長はすこし顔を赭らめていった。「じゃあ、中毒死だというんだろうが、それは頓死としても起り得ることじゃないかネ」