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るてん
流転
山下 利三郎
「探偵趣味」1927(昭和2)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,715 字 · 12 页
私は先刻ここで川上と頻りに主題循環論をやった、そのうち川上は帰ってしまったのだ……それから私はこんな氷雨ふる夜を捕吏に逐われて逃げ廻る破獄囚のことを考えながら、あの窓から覗いて……あの煙草屋の前を力なげに歩んでいる放浪者に心を惹きつけられた……慍られはしないかと思いながら跡を逐うて呼んでみたが、彼は素直に私の招きに従ってくれた……私はあのとき雑誌記者だと云わないで小説家と答えた。あんな小さな雑誌の名を問われたら却って困るのだった……それからあの放浪者はよく飲んだ。貪るように食った。よほど餓えていたのだ……それから語りだした彼自身の数奇な経歴。
小村はふとした好奇心を満足させるためにした行為が、飛んだ任侠的な結果に終ったことに異常な愉快さを感じて独りで微笑んだ。
その後およそ二た月ほどの日が流れた。
或××雑誌に久々ぶりで小村静雄の創作「霙ふる夜」が掲載された、作の善悪や反響の如何はさて措いて、主題が嘗てカッフェへ招いた放浪者の談話そのままであり、そして送られた稿料で膨らんだ蟇口を押えながら、小村が文豪然と気取りながら道頓堀あたりの盛場を、漫歩していたことは疑いもない。