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るてん

流転

山下 利三郎

「探偵趣味」1927(昭和2)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,715 字 · 12 页

青空文庫

いや、もうこんな話は止しましょう。こんな下らない身の上噺じゃ小説にもなりますまい、ほんとうに御退屈でしたろう……」

放浪者は淋しく笑って卓の上に残った茶碗を取上げたが、すぐ冷たそうに唇から放してしまった。自分自身の話に亢奮したらしく眼は輝いて頬に血の気が上り、先刻のような寒そうな悒鬱なようすは、どこにも残っていなかった。

氷雨のためにびしょ濡れだった衣服も靴も、燃盛るストーブの活気でもうことごとく皆乾いていた。

「まるで垂水洋鵝さんの小説のようですね」

小村のこの詞に放浪者はちょっと眼をぱちくりさせた。

「何でございます、それは」

「いや、この人はそういったようなことをよく小説に書く人ですが、それよりもっと興味のあるお噺でした。しかし十年近い年月をよく忍耐できましたね。一体誰がその蕗子という娘を殺したのでしょう」

「誰が殺したにしたところで、それはもう過去ったことで、幾ら詮議したとて彼女は生還っては来ないではありませんか。蕗子が生存しない以上私がこの世に残って何をしようと同じことです。刑務所で暮すことも決して苦痛だとは考えませんでした」

「実に不可解な心持ですな。