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あさまふんかこう
浅間噴火口
豊島 与志雄
「文芸春秋」1938(昭和13)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,938 字 · 24 页
何か新鮮なものに触れてきたような様子だった。
彼はそこに大きな盆を二枚差出した。木の丸盆で、内側の周囲に桜の花が不器用に彫ってあった。
「おばさんにお土産です。こんなもの、使えませんか。」
正枝はまだ黙っていたが、お茶を一口すすると、いきなり云った。
「一体、どこに行ってたんです。」
「だから、これ、軽井沢からのお土産です。」
「軽井沢ですって。」
「ちょっと寄りました。浅間山に登ってきました。」
「そして、別所さんは……。」
「一緒です。」
別所のことを云い出されても、李は訝る気色もなく、初めから分ってたもののような応対だった。
「浅間の噴火口はみごとです。ほんとによいことをしました。別所君をあの中に叩きこんでやりました。」
「え、噴火口に……。」
「それがよかったんです。元気になって一緒に帰ってきました。」
正枝は暫く黙っていた。そして案外低い声で云った。
「なぜ断って行かなかったんですか。どんなに気を揉んだか知れませんよ。」
「ひどく急でした。別所君がふいに、行こうと云いました。噴火口にとびこむか、断然あれを思いきるか、どっちかにすると云うんです。だから、見届けについて行きました。