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あさまふんかこう

浅間噴火口

豊島 与志雄

「文芸春秋」1938(昭和13)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,938 字 · 24 页

青空文庫

泣いたり怒鳴ったりした後で、死んでみせると別所は云った。死ねなかったら生き返るとも云った。そこで、李が立会人となって、突然浅間行きを決行した。別所が自殺するか生き返るかを、李は「絶大な興味で観察する」役目を自ら荷った。二人は沓掛に急行し、二日間は雨天のため酒で過し、次で夜中に出立して浅間に登った。まだ夜明け前に噴火口を覗き、雲海の上の日の出を迎え、更に噴火口の縁に長時間佇み、別所は全く「噴火口の中に没入し」、李も同様、あの端正荘厳な噴火口に魅惑され、二人はひそやかに「天上的な言葉を囁き交し」、それから浅間をかけ下りた。危険だが追分口の近道を取り、山麓の森林中で道に迷い、山蟻の巣を蹴散らし、「山蟻を全身に浴び」ながら、沓掛に出で、軽井沢まで自動車を走らせて、食事をし土産物を買い、夜中に汽車に乗った。「異常な興奮に」殆んど眠らず、金が無くなったので何にも食えず、「懐中は空虚で心意は充溢」して、戻ってきたのである。別所とは上野駅で別れた……。

そんな話を、正枝は半ば楽しく聞き取った。

「まるで小説のようですね。」

「小説以上です。」と李は真面目に云った。

「だけど、ふだんあれほど云っといたんですから、これからは、家を空ける時は断らなけりゃいけませんよ。