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よくそうのはなよめ
浴槽の花嫁-世界怪奇実話1
牧 逸馬
牧逸馬『浴槽の花嫁-世界怪奇実話1』。同一底本的分册已合并为一书。收入:浴槽の花嫁、女肉を料理する男。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,908 字 · 96 页
が、その男が振り返ったのです。そして私が、自分の方を見ながら熱心に靴磨きに囁いているのを見ると、突然彼奴は鉄砲玉のように駈け出して、ちょうどそこへ疾走して来た電車へ飛び乗ってしまいました。私は夢が覚めたように初めて気がついて、店から転がり出て大声に騒ぎ立てましたが、その時はもう電車は男を乗せたまま遠く町のむこうに消え去っていたのです。まことに残念でなんとも申しわけありませんがこれが事実であります。その男が一昨日の晩私が葡萄を売った客と同一人であることは断じてまちがいありませぬ。」
ようするにパッカアは、白昼、平明な日光と普通の街上群集の中で見たがゆえに、いっそうこの人鬼にたいして、瞬間いいようのない絶大な恐怖を抱いたのである。このことは自分でも「正直のところあまりびっくりしてどうにも足が動かなかった」と告白しているとおり、この一種形容できない白昼の驚怖感が、刹那彼の神経を萎縮させて、とっさの判断、敏速機宜の行動等をいっさい剥奪し、呆然として彼をいわゆる不動金縛りの状態に、一時佇立せしめたのだと省察することができる。これは十分の理解と同情を寄せうる心理で、なにも格別パッカアが臆病な男だったという証拠にはならないが、それにしても、つぎに「ちょうどその時店に自分のほか、人がいなかった」