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うみのかなた

海のかなた

小川 未明

「週刊朝日」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,028 字 · 14 页

青空文庫

日は、西に入りかかっていました。少年は、あちらの空のうす黄色く、ほんのりと色づいたのが悲しかったのです。

雨になるせいか、つばめが、町の屋根を低く飛んでいました。このとき、少年は、疲れた足を引きずりながら、まだ家の内には、燈火もついていない、むさくるしい傍の軒の低い家の前にさしかかりますと、つばめが三羽、家の内から、外の往来に飛び出しました。それと同時に、ブーンといって、バイオリンの糸の鳴り音がきこえたのであります。

少年は、はっと心に思いました。なぜならその音色は、きき覚えのあるなつかしい音色でありましたからです。

もうすこしのことに、気づかずに通り過ぎようとしましたのを、彼は立ち寄って、その古道具屋をのぞいてみました。それは、つばめが、止まっていて、飛び立つときに、その糸を鳴らしたとみえます。そこには、バイオリンが一ちょうすすけた天じょうからつるされていました。彼は、よく見ると、それに小さな光る星のような、真珠がはいっていたのでした。

「あ!」と、声をたてて、少年は、喜びに、狂わんばかりでありました。そしてさっそく、このバイオリンを買って、自分の腕に奪うように抱きました。