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うみのかなた
海のかなた
小川 未明
「週刊朝日」1924(大正13)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,028 字 · 14 页
ひとり、松蔵という少年が、この中におりました。この少年の家は、貧乏でありました。彼は、他の子供らが騒いだり、駆けたりして遊んでいましたのに、ひとり、おじいさんのそばへきて、熱心にバイオリンの音を聞いて、感心していました。
いつしか、おじいさんと、この少年とは仲よくなりました。
「どうして、こんないい音が出るのでしょうね。」と、松蔵は、不思議そうにおじいさんに向かってたずねました。
「坊は、音楽が好きとみえるな。」と、人のよいおじいさんは、少年の顔を見ながら、笑っていいました。
「聞いていると、ひとりでに涙が出てくるの……。」
「ははは、坊も、私のお弟子になってバイオリンが弾きたいかな。」と、おじいさんはいいました。
「おじいさん、どうか僕に、バイオリンを教えてください。」と、少年は、熱心に、目を輝かして頼みました。
それからは、おじいさんは、自分のバイオリンを少年に貸して、弾く方法を教えてやりました。
松蔵は、おじいさんから、バイオリンを教わることをどんなにうれしく思ったでしょう。そして、毎日、日暮れ方になると、城跡にいって、いつもおじいさんの腰かける石のそばに立って、おじいさんのくるのを待っていました。