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うみのかなた

海のかなた

小川 未明

「週刊朝日」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,028 字 · 14 页

青空文庫

寒い冬の夜も、また、暑い夏の日盛りもいとわずに働きました。そして、自分の家のために尽くしました。また、もう一度、失ったバイオリンを自分の手に買いもどして、それを弾きたいという望みばかりでありました。

けれど、あのバイオリンが、はたして、自分の手にもどってくるか、どうかということは、まったくわかりませんでした。もしかだれか、知らぬ人の手に渡ってしまって、ふたたび自分の手に返るようなことはないと考えましたときは、彼は、どんなに悲しみ、もだえたでありましょう。

けれど、あのバイオリンは、きっと、いつか自分の手にもどってくるにちがいないと信じますと、また、彼の瞳は、希望の光に輝いたのであります。

三年の後、彼はとうとうバイオリンを、買いもどすだけの金を持つことができました。

「これから、自分は、バイオリンを探して旅立ちしよう。」

松蔵は、城跡の石のところにきました。そして、海の方をながめて、祈りました。

「どうか、あのなつかしいバイオリンが、私の手にもどってきますように。」と、祈りました。

空を鳴きながら飛んでいるつばめは、彼のいうことを聞きました。そして、この憐れな少年に同情するごとく、くびを傾けてながめていました。