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うみのししゃ
海の使者
泉 鏡花
「文章世界」1909(明治42)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,811 字 · 10 页
ふッ、と言いそうなその容体。泡を払うがごとく、むくりと浮いて出た。
その内、一本根から断って、逆手に取ったが、くなくなした奴、胴中を巻いて水分かれをさして遣れ。
で、密と離れた処から突ッ込んで、横寄せに、そろりと寄せて、這奴が夢中で泳ぐ処を、すいと掻きあげると、つるりと懸かった。
蓴菜が搦んだようにみえたが、上へ引く雫とともに、つるつると辷って、もう何にもなかった。
「鮹の燐火、退散だ」
それみろ、と何か早や、勝ち誇った気構えして、蘆の穂を頬摺りに、と弓杖をついた処は可かったが、同時に目の着く潮のさし口。
川から、さらさらと押して来る、蘆の根の、約二間ばかりの切れ目の真中。橋と正面に向き合う処に、くるくると渦を巻いて、坊主め、色も濃く赫と赤らんで見えるまで、躍り上がる勢いで、むくむく浮き上がった。
ああ、人間に恐れをなして、其処から、川筋を乗って海へ落ち行くよ、と思う、と違う。
しばらく同じ処に影を練って、浮いつ沈みつしていたが、やがて、すいすい、横泳ぎで、しかし用心深そうな態度で、蘆の根づたいに大廻りに、ひらひらと引き返す。
穂は白く、葉の中に暗くなって、黄昏の色は、うらがれかかった草の葉末に敷き詰めた。